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広島地方裁判所呉支部 昭和44年(ケ)5号 決定

債権者 深田サルベージ株式会社

右代表者代表取締役 深田鉄次

〈ほか七名〉

債務者 朝日海運株式会社

右代表者代表取締役 上野浩一

主文

一、さきに定めた別紙配当表を次のとおり変更する。

二、順位四番丸喜商事株式会社の順位は七番とし、大阪市、山水物産株式会社、株式会社堺造船所をその先順位として各請求金額に応じ配当する。

理由

丸喜商事株式会社(以下単に丸喜という)は深田サルベージ株式会社申立にかかる債務者朝日海運株式会社に対する汽船朝日丸の競売手続に際し、右債務者に対して金七、九八八、五九六円の貸金債権を有し、これにつき大阪法務局昭和四二年八月二四日受付第一二二一号を以てなされた元本極度額七、四〇〇、〇〇〇円の抵当権設定仮登記を経由している旨主張して競落代金の支払を求めた。

よって当裁判所は大審院昭和二年五月二六日、同六年一月一四日各判決の趣旨に従い競落代金四七、〇五〇、〇〇〇円につき別紙配当表のとおり配当することとし、同四四年五月二三日配当期日においてこれを利害関係人に展示し、右丸喜に対する配当金額は全額これを供託した。

しかるところ最近に至り右丸喜代理人から同社が本登記をするための必要な条件を備えるに至ったとして右配当金の支払請求があったが、その疎明資料によれば、右丸喜と債務者間の抵当権設定契約は昭和四二年八月一日ごろすでに成立しその証書も同年八月二四日仮登記当時すでに作成されていたものであって、右丸喜らにおいて真実本登記を経由する意思があったとすれば、登録税の関係はともかくこれを阻むべき障害があったものとは認められない。

そこで考えて見ると、抵当権は当事者間においては格別第三者に対しては本登記なき限りその効力を対抗し得ないことは多言を要しないところ、前記昭和二年の判例は「苟モ余剰ヲ生シタルトキハ之ヲ仮登記ノ抵当権者ニモ配当スヘキモノトス」と説いているのであって当事者間における抵当権の効力を論じたにすぎないものと考えられるのであるが、昭和六年の前記判例は「本登記ナキ場合ニ於テ其権利者ハ該抵当権ヲ第三者ニ対抗シ得サルヘシト雖」といいながら「本登記ヲ為サハ仮登記ノ順位ニ於テ抵当権ヲ第三者ニ対抗シ得ルコトアルヘキ地位ヲ有スルモノナルカ故ニ此地位ヲ保全スル目的ノ範囲ニ限リテハ仮登記権利者ノ権利ト雖モ之ヲ無視スヘキニ非ス」として「競売裁判所ハ仮登記権利者カ若シ本登記アリトセハ第三者ニ対抗シ得タルヘキ抵当権及其順位ニ因リテ之ニ配当スヘキ金額ヲ定メテ配当表ヲ作成シ民事訴訟法第六三〇条第三項ノ規定ヲ類推シテ右金額ヲ供託シ後日仮登記権利者カ本登記ヲ為シ得ルニ必要ナル条件ヲ備フルニ至リタルトキニ之ヲ交付スヘキモノト解セサルヘカラス」(新聞三二二四号九頁)と述べている。

すなわち右判例は競落の結果競売法第二条第二項により抵当権は本登記あるものと雖もすべて消滅し、仮登記について本登記をすることが考えられないのにかかわらず、従って未登記というべき抵当権者に対し、単に本登記を為し得るに必要な条件が備わったというだけで、本登記を経由したと同一の効力を付与すべきだというのであってまさに民法第一七七条の大原則に背馳すると考えられるのに、これについて首肯するに足りる理由は全く示されていないのである。(註釈民法第六巻三六二頁参照)

思うに仮登記が法律上単に順位保全の効力を有するに止まるものとされている以上、これのみに止まって本登記を経由しなかった抵当権者は、特段の事由がないかぎりこれによる不利益を甘受すべきが当然であって、当事者間における効力以上に、本登記を経由した他の抵当権者と同一の利益を与えるべしとする前記判例はにわかに採用しがたい。

かように考えてみると仮登記を経由したにすぎない本件丸喜の抵当権について他に特段の事由も認められないのであるから、これを以てすでに抵当権設定の本登記を経由している山水物産株式会社、株式会社堺造船所及びこれらに優先する大阪市の債権に対し優先権ありとした前記配当表は誤りであり、非訟手続法第一九条第一項を準用してこれを変更すべきものと認める。

よって主文のとおり決定した。

(裁判官 富川秀秋)

〈以下省略〉

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